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インタビュー 美術館・博物館から見た"空知"  ~第3回 岩見沢アール・ブリュットギャラリー~

空知地域ゆかりの文化・芸術を、美術館や博物館、アートギャラリーを通じてご紹介するシリーズ「インタビュー 美術館・博物館から見る“空知”」。今回は、「岩見沢アール・ブリュットギャラリー」で、岩見沢市健康福祉部福祉課の山田さんと、スタッフの横川さんにお話を伺いました。

「アール・ブリュット」って何だろう?               

― 初めてアール・ブリュットの作品を見たとき、ピカソやシャガールを思わせるような、生命の躍動感というか、力強さにあふれる作風が多い印象を受けました。そもそも「アール・ブリュット」とは、何でしょうか。

山田さん 「アール・ブリュット」とは、ジャン・デュビュッフェというフランスの画家が1945年に提唱した概念です。正規の美術教育を受けていない人による、既存の芸術概念や流行、伝統などの枠にとらわれない作品を指していて、いわば「生(き)の芸術」を意味します。感性の赴くままに制作されたもの、とでもいいましょうか。日本では、知的障害や精神障害のある方々の芸術を指して「アール・ブリュット」と呼ぶことが多いですが、障害者芸術とイコールということではありません。

― アール・ブリュットの魅力は、どんなところにあるのでしょう。

横川さん そうですね。例えば、色の概念を持たずに好きな色を好きなように、作品の中に散りばめている。そういった表現の自由さにあるのではないかなと思っています。

山田さん 現代芸術の雰囲気をもった作品もあれば、書や伝統的な日本の文様を取り入れていたり、何百もの紙片を重ねて貼り合わせているもの、ボールペンで緻密な線を書き込んでいる作品など、アール・ブリュットの作品はバラエティに富んでいて、本当に多彩です。

横川さん 中には、子ども達が見入って離れない、そんな作品もあります。ぱっと見て「え、何?」と思ってよく見ると、くすっと笑ってしまうような、そんなユーモアというか遊び心が込められていたり。作品それぞれに、違った魅力にあふれていますね。

 
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〔企画展『アール・ブリュット 空風(そらかぜ)』開催中のギャラリー外観〕

横川さん
 今、ショーケースに展示している作品の中に、紙で立体的に作った自動車があります。タイヤの部分は、紙を細長く同じ幅に切って、それをトイレットペーパーのように巻いて作ってありますが、タイヤの中心部と外側は違う色の紙を使うことで、よりリアリティが増しています。これを制作された方は普段、仕事で紙の裁断をされていて、紙を何重にも巻いてみたらタイヤのように見えたのだそうです。そうしたお仕事ならではの着想が作品にもいかされています。


山田さん 作品を通して作者の人となりを知ることができるのもアール・ブリュットの魅力ではないかなと思いますね。

 

岩見沢市と「アール・ブリュット」                

― そんなアール・ブリュットと岩見沢市とのつながりといいますか、アール・ブリュットに着目し、取組を進めるようになったのはいつ頃からですか。

山田さん 岩見沢市では、かねてより多様な人々が互いに理解を深め、支え合う共生社会の構築に向け、取組を進めてきました。2010年(平成22年度)から始まった「ハート&アート展」もその一環です。これは広く市民から作品を募集する公募型のアート展で、市民にはもちろん、障がいのある方を含みます。障がい者の自己表現や社会参加の機会を増やし、障がいのある人とない人の相互理解を深めることを目的として開催しています。

― 過去に、アール・ブリュットをテーマにしたフォーラムなども開催されていましたよね。

山田さん はい。取組の転機となったのは2015年(平成27年)ですね。東京オリンピック・パラリンピックの開催を2020年に控える中で、スポーツだけでなく、障がい者の文化芸術活動も盛り上げていこうという機運が高まり、国による支援も展開されました。これがきっかけとなって、北海道においても障がい者の芸術活動を支援する組織「北海道アールブリュットネットワーク協議会」が設立されました。それが2015年(平成27年)のことです。  
 この協議会の顧問を務めているのが渡邉芳樹さん。厚生労働省で社会保険庁長官などの要職を歴任され、スウェーデン特命全権大使もなさっていた方で、障がい者芸術に関しても造詣が深い方なのですが、実は岩見沢市のご出身なのです。この方とのご縁があって、岩見沢市においても、文化芸術を通じて更なる共生社会の実現を目指そう、ということになりました。
 そして、2016年(平成28年)から、市内を会場に「北海道アール・ブリュットフォーラム」を継続的に開催し、「ハート&アート展」10周年の節目となる2019年(令和元年)11月には「岩見沢アール・ブリュット芸術祭2019」を開催するに至ったのです。

 
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〔岩見沢アール・ブリュット芸術祭2019リーフレット(部分)(岩見沢市ホームページより)〕

山田さん 芸術祭では、前述の渡邉さんをはじめ国内外の著名人による基調講演やパネルディスカッションのほか、障がいのある方が奏者・演者として加わった和太鼓の演奏やダンスパフォーマンスがステージで披露されました。また、会期中は、アール・ブリュット作品の展覧会や、聴覚障がい者向けの字幕と視覚障がい者向けの音声ガイドの両方を付けたバリアフリー映画の上映会、ダンスや音楽のワークショップなど、障がいを抱える人もない人も、お年寄りも子どもも参加して、一緒に楽しむことのできる様々な催しを行いました。
 こうした取組を通じて、アール・ブリュットに対する認識や、多様性への理解は徐々に広まりつつあると感じていますが、機運の盛り上がりをイベントの時だけ、一過性のものとして終わらせたくはない。継続的に何か取り組むことができないかと模索した中で、2020年9月にオープンしたのが、ここ「岩見沢アール・ブリュットギャラリー」なのです。

 

岩見沢アール・ブリュットギャラリー               

横川さん ギャラリーは、ご覧のとおり岩見沢市の中心街・4条通り商店街にあります。ちょうど「であえーる」の南向かいに位置していますね。開館時間は10時から17時まで、休館日は水曜日、日曜日と祝日です。障がいのある方が制作された作品の展示を基本としています。
 
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〔岩見沢アール・ブリュットギャラリーの外観(岩見沢市ホームページより)〕

― 普段はどのような作品を展示していますか。


山田さん テーマを決めて、1~2カ月くらいの期間で企画展を開催しています。例えばちょっと不思議な印象を受ける作品を集めて『「ふ・し・ぎ」展』、緻密なタッチの作品をお見せした『アールブリュット「繊彩(せんさい)」』、といった具合です。
 
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〔岩見沢ハート&アート展 10周年の図録と、岩見沢アール・ブリュットギャラリー企画展のフライヤー〕

山田さん
 現在開催中※の企画展『アール・ブリュット「空風(そらかぜ)」』は、空知在住の方の作品を中心に、貼り絵や立体造形、ゼンタングル(簡単な模様を繰り返し描く表現)など、幅広な作品を展示しています。よく見るような風景画や油彩画などとは一線を画していて、画材はクレヨンやボールペンなど、身の回りにあるものばかりです。


企画展『アール・ブリュット「空風(そらかぜ)」』は、令和4年(2022年)1月18日で終了しています。
 
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〔企画展『アール・ブリュット「空風(そらかぜ)」』開催中のギャラリー内の様子〕

― 手前のキャラクターのクラフトも、発想力の豊かさを感じますね。段ボールで土台を作り、その上にラミネートした人物像を、割り箸を支柱にして立てたりしていて、素材はどこの家にでもありそうなものですが、ひとつひとつの作品はとてもていねいに、緻密に作られている印象を受けました。

山田さん 芸術文化は実は身近なもの、自由なものだということを改めて感じさせられます。一方で、これらの作品は、ともすれば福祉事業所の中で眠ったままになっていたかもしれません。それがこうして外に出て、皆さんの目に触れることで、地域と、社会と繋がっていくきっかけになるのです。

アール・ブリュット 今後の展望                 

― このギャラリーを訪れて、作品をご覧になる方々の反応はいかがですか。

横川さん オープンから1年数ヶ月が経ちましたが、定期的に訪れる方や、企画展の初日には必ず顔を出してくださる方なども徐々に増えつつあります。ちょうど中心街の交差点の前にあるからでしょうか、信号待ちしている車の中からこのギャラリーをご覧になっている方もいるんですよ。駐車場もありますので、お時間があるときには気軽に寄っていただければと思っています。

 
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〔左:岩見沢市健康福祉部福祉課の山田さん、右:岩見沢アール・ブリュットギャラリーの横川さん〕

― 今、新型コロナウィルスの影響を受けて、旅行控えや遠方への移動を控えざるを得ない状況で、何かと閉塞感が漂いがちな中、アートに触れることのできる場所が身近にあると心が少しほっとする、そんな気がします。


山田さん そうですね。まちなかで日常的に、肩肘張らずに自然にこうした作品に触れられる場所があるというのはいいなと思っています。

横川さん 通りがかかりにちょっと覗いてみる、あるいはゆっくり作品を眺めるといった具合に、見る人それぞれに心地の良い空間となるよう心がけています。

― 次の企画展について教えていただけますか。

横川さん 1月21日から2月22日まで、岩見沢高等養護学校の卒業展を開催します。この学校は、東川町で開催されている「写真甲子園」に何度も出場している、いわば写真の強豪校です。でも地元の私たちがその作品を見る機会って、実は意外と少ないのです。作品はモノクロが多いですが、中にはカラーの印象的な作品もありますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいですね。写真のほか、絵画や書なども展示する予定です。
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〔北海道岩見沢高等養護学校作品展のフライヤー〕

山田さん
 被写体の切り取り方にストーリーを感じますよね。生徒さんたちは、写真について専門的にいろいろ勉強されているので、そういう意味では「アール・ブリュット」ではないのかもしれませんが、ここのギャラリーでの展示もこうでなくてはならない、と厳密に決めている訳ではありません。皆さんに見ていただいて、面白いと思っていただくことがまずは大切だと思っています。


― アール・ブリュットに関して、今後どんな展開を期待したいですか。

山田さん 芸術というのは、興味のない人は全くといっていいほど、見に行かないと思うのです。敷居が高いと感じるのでしょうかね。だけれども、アール・ブリュットの魅力は、こういった興味のない人にもどんどん知って欲しいと思っています。なので、例えば、地元の農産品のパッケージなどに作品がデザインとして採用されるとか、こういったことで、多くの方の日常生活の中に入っていくことができたらいいのではないかなと思います。

横川さん 皆さんの普段の生活の中、身近なところに取り入れてもらって、日々接する機会が増えると嬉しいですよね。

山田さん 障がいをお持ちの方にとって暮らしやすい社会がすぐに実現するという訳にはなかなかなりませんが、アール・ブリュットは、多様性への理解が浸透するきっかけになってくれるものと思っています。そういう意味では、岩見沢市の取組はまだまだ始めたばかり。これからですね。ギャラリーで待っているだけでなく、外へ出て、様々な形でその魅力を発信していくことも考えていきたいと思います。

※岩見沢アール・ブリュットギャラリーの場所や休館日、企画展などについて詳しくは、岩見沢市ホームページ(岩見沢アール・ブリュットギャラリーのページ)をご覧ください。
https://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/content/detail/3151822/

 

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