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インタビュー 美術館・博物館から見る“空知” ~第5回 沼田町化石館~

空知地域のあゆみや文化・芸術を、美術館や博物館、アートギャラリーを通じてご紹介するシリーズ「インタビュー 美術館・博物館から見る“空知”」。今回は、「沼田町化石館」学芸員の長野あかねさん、松井佳祐さんにお話を伺いました。
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【ヌマタネズミイルカの骨格標本の前で。左:長野あかねさん、右:松井佳祐さん】

化石の宝庫、沼田町

―沼田町は、数多くの化石が発掘されている「化石のまち」だということを、恥ずかしながら最近、知りました。

長野さん まちの北部ではアンモナイトやクビナガリュウ、モササウルスなど古い年代の化石が、南部では約700万年前から400万年前の、比較的新しい年代の化石が産出しています。ひとつのまちで、様々な年代の化石が見つかるというのは、実はとても珍しいことなのです。
 
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現在でも、大型のクジラ類の化石は年に1~2個、発見されています。また、約400万年前の「タカハシホタテ」の化石がたくさん発掘されますね。

-この化石体験館は、いつ頃に開館したのですか。

長野さん 沼田町化石館がオープンしたのは2000年(平成12年)ですが、話はそれより15年ほどさかのぼります。1985年(昭和60年)に、ネズミイルカの化石が、それもほぼ1体分の骨がそろった状態で、町内で発見されました。
それをきっかけに、町民有志による「沼田歯鯨(はくじら)会」が設立され、以降、毎年のように大規模な発掘作業を行い、大型の海棲哺乳類の化石を発掘してきました。発掘はもちろん、化石のクリーニングやレプリカづくりまで、すべて町内で行っているのです。

-そういえば、このシリーズの前回、滝川市美術自然史館でも、タキカワカイギュウの化石の発掘・調査・研究からレプリカづくり、展示に至るまでの一連の作業を、市内の小中高校の理科の先生が中心となって、すべて地元で行ったと伺いました。

インタビュー 美術館・博物館から見る“空知” ~第4回 滝川市美術自然史館~

長野さん 1992年(平成4年)から6年間、沼田町で学芸員を務めた古澤仁、そして当館の名誉館長である木村方一も、かつてタキカワカイギュウの発掘・調査に携わったと聞いています。
なお、沼田町では、約800万年前に生息したヌマタカイギュウと、約500万年前に生息していたタキカワカイギュウの化石が発見されています。双方の肋骨の化石を比較すると、この300万年の間に、カイギュウは進化して、大型化していることがよくわかります。
 
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【左はヌマタカイギュウ、右はタキカワカイギュウ。いずれも肋骨の化石。】
-滝川で得られた知見を活かすことのできる環境、関係にあったということでしょうか。滝川とのつながりは、カイギュウの進化だけではなかったようですね。

長野さん そうですね。沼田町化石館は、開館当初は沼田町の中心部にありましたが、現在は収蔵庫やレプリカ工房を市街地に構えています。レプリカづくりのノウハウも滝川方式に学んだもの。町民のみなさんの参加、サポートがあってこそ、今日に至るまで地域で取組を進めてくることができたのです。
2008年(平成20年)に幌新地区にオープンした、ここ化石体験館では、収蔵資料の展示、教育プログラムや体験メニューの提供だけでなく、企画展や講演会の開催、化石の調査・研究など、幅広い活動を行っています。
 
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【沼田町幌新地区にある「沼田町化石体験館」】

北海道の天然記念物「ヌマタネズミイルカ」

-ところで、「ヌマタネズミイルカ」の「ネズミ」って、イルカに「ネズミ」と付けるなんて、不思議な気がします。どのような意味で命名されたのでしょうか。

長野さん とてもいい質問です(笑)。①色がネズミ色だったから、②鳴き声がネズミに似ていたと推測されるから、③大きさが他のイルカやクジラ類に比べて小さかったから、④ネズミのようなしっぽ(尾ひれ)を持っていたから。さて、どれが正解だと思いますか。

-えーと…。②の鳴き声が似ていたから、でしょうか。

長野さん 難しいですよね(笑)。では、このパネルをご覧ください。
 
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【「世界の鯨」パネル。長野さんが指しているのがネズミイルカ】
長野さん 正解は③です。ヌマタネズミイルカの体長は、成体で約2メートル。ヌマタネズミイルカが属するネズミイルカ科のイルカたちは、他のクジラ・イルカ類と比較すると、こんなに小さいのです。

-2メートルという大きさは、どうして判明したのでしょうか。

長野さん 1985年(昭和60年)に、町内を流れる幌新太刀別川の河床から、ほぼ全身骨格の化石が発掘されました。その後、過去に発掘した収蔵資料の中から、2015年(平成27年)に耳の骨、その翌年には頭骨の化石が相次いで報告されたのです。
 
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【館内には、ヌマタネズミイルカの発掘現場を再現したコーナーも】
-発掘現場を再現した様子を拝見すると、本当にきれいに全身の骨が揃っている様子がわかります。2体は、後になってからヌマタネズミイルカの化石だとわかったのですね。

長野さん 最初に発掘された当時は、ヌマタネズミイルカの化石を研究する専門家が日本にあまりいませんでした。この30年の間に研究が進んで、判明したというわけです。しかも、新属・新種のネズミイルカ科の化石と確認されました。1体目の化石の保存状態が極めて良かったということに加え、同じ場所から3体もの同種の脊椎動物化石が発見されるのはとても珍しいことで、2018年(平成30年)、これらの化石は北海道天然記念物に指定されました。
ちなみに、今、化石体験館に展示している復元骨格のレプリカは、今年の春に新たに制作したものですよ。
 

発掘も研究も、現在進行形。

-「大型のクジラ類の化石は年に1~2個発見されている」とのことでしたが、館内中央に展示してある全身骨格標本は、すべて沼田町内で発掘されたものでしょうか。

長野さん はい。いずれもレプリカで、発見されていない一部分、例えばヌマタナガスクジラの頭部の骨格は、他の地域で発掘されたクジラの化石を参考に復元しています。
 
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【左:ヌマタナガスクジラ、中央:クビナガリュウ、右:ヌマタカイギュウの全身骨格標本】
-収まりきらない。大きいですね。

長野さん ヌマタナガスクジラで全長約8メートルあります。約700万年前に生息していたもので、1989年に沼田町内の雨竜川の河床で発見されました。
大きいといえば、モササウルス。当館では、アメリカで発掘された同時期(約9千万年前)の化石の全身骨格の模型を展示しているのですが、沼田町でも頭骨の化石の一部が発掘されています。その化石から、沼田町で発見されたモササウルスは全長約5メートル、つまり模型のおよそ1.5倍もの大きさだったことがわかっています。
 
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-モササウルスは、確か水生の爬虫類で、映画「ジュラシック・ワールド」にも登場します。鋭い歯。これで噛まれたらひとたまりもありません。
そしてこちらは、セイウチのキバですか。セイウチって、すごく長いキバを持っていますよね。
 
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長野さん と思うでしょう。ところが、沼田町に生息したセイウチは、その化石から、キバがとても小さいことがわかったのです。過去の研究では、派生的なセイウチとして発表されていますが、今また改めて、当館の特別学芸員が調査・研究に取り組んでいます。研究が進んでいくと、トドなど他の海獣の仲間に分類される…なんてことが起こるかもしれませんね。発掘も研究も、まだまだ現在進行形なのです。

-それにしても、沼田町でこれほどまでにたくさんの化石が発見されるのはなぜでしょうか。

長野さん 300万年前くらいまでは、沼田町は海の中にあったのです。それが気候変動や地層の変化によって陸地となりました。ただ、同じように日本各地で化石が見つかるのか、というと必ずしもそうではありません。例えばこの近辺だと雨竜沼湿原の東側に位置する恵岱岳はもともと火山で、300万年前に噴火したことがわかっています。こうしたかつての火山の周辺では、化石は見つかっていないのです。
そういう意味でも、沼田町は、約8,800万年という幅広い地層に様々な年代の化石が眠っている、まさに「化石王国」と世界に向けて誇れる場所だと思っています。
 

見て、触って、発掘して。

長野さん これは、沼田町内で発掘されたタカハシホタテの化石です。

-すごい。本物の化石ですね。

長野さん 持ってみませんか。

-ぜひ。わ、重たい。私たちが普段食べているホタテとは、大きさはもちろん、殻の厚みと貝のふくらみが全然違います。
 
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【左が今のホタテ、右はタカハシホタテの化石】
長野さん タカハシホタテの最古の化石は、新十津川で見つかっています。約700万年前のものです。その後、気候の寒冷化や温暖化に伴って、分布域も南下したり北上したり。北限はロシアのカムチャツカ半島にまで広がっています。一方、南限は福島県浪江町で、ここと同じ地層で発掘された化石も展示していますよ。沼田町では、約400万年前のタカハシホタテの化石がたくさん出土します。
化石館で、独自にタカハシホタテの稚貝を研究している方もいます。採取できる化石が豊富にある沼田町だからこそ、稚貝から成体へ成長する過程を化石で追うことも可能です。
 
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長野さん 当館では、例年6月から7月にかけて、数回、化石採取会を開催しています。たいていはタカハシホタテになりますが、必ず化石を発掘できるとあって、とても人気がありますよ。ちなみに沼田町では、条例により町の許可を得ずに化石を採取することはできません。この採取会に参加していただくと、採取した化石はお持ち帰りいただけます。

-実際に触ったり、発掘したり。体験を通じて得られる学びと感動は、記憶にも色濃く残り、感慨深いものがありますね。

長野さん 以前は、館内の「模擬発掘コーナー」で、発掘の模擬体験をしていただくこともできました。今は新型コロナウィルス感染予防のため、模擬体験に換えて、発掘体験キッドを販売しています。屋外に日よけのテントを張って特設コーナーを設けていますので、そこでやるもよし、あるいはご自宅へ持って帰ってするもよし。中には数種類の化石、磨石、原石のうち1種類が入っています。ご家族やお友達と一緒にいくつか購入して、何が出てくるかワクワクしながら、お手軽に発掘体験を楽しんでみてはいかがでしょうか。
 
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【体験キッドは中身によって、ミニ発掘、ハイグレード、ウルトラハイグレードの3種類】

ヌマタネズミイルカ化石のレプリカを作りたい。クラウドファンディング、進行中!

-これは、タカハシホタテ…の化石のレプリカですね。販売も行っているということでしょうか。
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長野さん はい。今や熟練した技術で完成度の高いレプリカを、当館で制作できるまでになりました。レプリカだけではなく、ちょうど明日(2022年8月6日)から、オリジナルの野帳とマスキングテープの販売も開始します。
野帳は、実際に発掘現場などで記録を取ったりする際に使用するものです。野帳とマスキングテープは、ゆるキャラ調とリアリティーあふれるイラストの2タイプを、それぞれご用意しました。
レプリカやオリジナルのグッズを通じて、化石を身近に、そして親しみを感じてもらえたらと思っています。
 
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松井さん 本当は沼田町の化石を、より多くの方に知っていただきたいところなのですが、この2年間は、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、各地の博物館では特別展の開催はおろか、開館さえできない状況が続いていました。ここ「沼田町化石体験館」も例外ではありませんでした。今、イベント等の開催は少しずつ再開してきましたが、沼田町へ、そして当館を訪れる道外など遠方の方は、コロナ禍以前に比べ大幅に少なくなっています。
そこで、化石のレプリカをもう1体作製し、展示の希望があれば全国に貸し出しを行うことで、「化石王国ぬまた」の魅力をPRしたいと考え、作製のための費用を、ガバメントクラウドファンディングによるふるさと納税で募集する取組を行っています。
もちろん、レプリカは沼田町で、当館のレプリカ工房で制作しますよ。

-実施期間はいつまででしょうか。

松井さん 寄附の募集期間は、2022年8月31日(水)までです。目標額300万円に対し、8月15日現在で寄附いただいた額は415,000円、達成率は13.8%にとどまっています。このプロジェクトの趣旨にご賛同いただき、ぜひご協力をお願いしたいと思っています。
なお、寄附の金額は、2,000円、5,000円、10,000円、20,000円、50,000円、100,000円の各コースを設けており、金額に応じて様々なお礼の品をご用意しています。町長直筆のお礼状と実績報告書をお送りするほか、化石体験館に寄附してくださった方のお名前を掲示する予定です。

-5,000円のコースは、A~Cの3タイプありますね。5,000円コースのAは化石体験館の年間パスポート、Bだと、先ほどご紹介くださったオリジナルの野帳、そしてCは完熟トマトのケチャップやジュース。

松井さん はい。10,000円以上のコースでは、品質を保つため雪を活用して低温貯蔵している沼田町のブランド米「雪中米」のゆめぴりかを、お礼の品としてご用意しています。

-募集終了までもう少し日がありますので、より多くの方にご協力いただけることを願ってやみません。そして、沼田町へ来て、化石の魅力に触れて。そんな形で応援してくださる方がこれからもっと増えるといいですね。

長野さん 実は私自身、沼田町で化石の発掘体験をしたことがきっかけで、古生物や化石について学ぶようになりました。化石は沼田町の大切な宝物です。化石を通じて今を生きている生物に興味を持ち、地域の歴史や文化に触れ、そして沼田町に愛着を感じて応援してもらえたら嬉しいですね。

松井さん 私も子どもの頃、よく学校帰りに化石館に寄り、沼田の化石の魅力に触れてきました。今の自分があるのは、そうしたご縁がつながったからなのでしょうね。今度は私たち大人が、これからを担う子どもたちに、沼田町が誇る化石の魅力を伝えていく番だと思っています。
 

取材後記

沼田町化石体験館に伺った数日後のこと。
「そらち・デ・ビュー」のスタッフ3名で、「発掘体験キッド」にチャレンジしてみました。
中に何が入っているかは、掘り当ててのお楽しみです。
 
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で、専用のクシでガリガリ削って、中から出てきたのはこちら。
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キッド附属のリーフレットを見てみると…
サメの歯、ハウライトターコイズに、カルサイトでした。
 
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残念ながら、いずれもレア度は星ひとつ。
でも、「ミニ発掘のたのしみ方」が紹介されていて、これなら小さい子でも簡単にできますね。
しかも。沼田町化石館のホームページには、

どちらも種類が多く、全種類揃えるコンプリートは至難の業でしょう。

と、まるで挑戦状?のような、魅力的な誘い文句が掲載されています。

「ハイグレードミニ発掘も、やってみたいね。」
「化石採取会、参加してみたくなったよね。」

ひとりがぼそっとつぶやくと、他の2人も思わずうなづき、納得の表情。
こうやって、化石の沼にハマっていくのでしょうね。

夏休みシーズンでお忙しい時期にもかかわらず、とってもていねいに説明してくださって、長野さん、松井さん、ありがとうございました。

沼田町化石館の取組や「化石王国ぬまた」を世界に発信するためのガバメントクラウドファンディング、沼田町化石体験館へのアクセス・開館時間などについて詳しくは、沼田町化石館のホームページをご覧くださいね。
http://numata-kaseki.sakura.ne.jp/
 

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